可喜庵の庭のソメイヨシノが、東京の開花宣言直後、少し遅れて開花した3月下旬に、埼玉県立近代美術館で開催された「インポッシブル・アーキテクチャー」の最終日へ出かけました。
この展覧会は「アンビルド/未完の建築」ばかりで、なぜ「インポシッブル」なのか疑問に思っていました。案内には、「ここでの『インポッシブル』という言葉は、単に建築構想がラディカルで無理難題であるがゆえの『不可能』を意味しません。不可能に目を向ければ、同時に可能性の境界を問うことに繋がります」とあります。多くの作品に懐かしさを覚えると同時に、「建築可能であったプロジェクト」と名付けられた、ザハ・ハディド+設計JV「新国立競技場」は、なぜ建設不可能となったのかを考えさせられる展示でした。
当時、ザハ・ハディド計画案への報道は、一方的に建築家を悪者に仕立て上げるものでしたが、どうも発注者と政治家に未来を見越した決断をできるリーダーが不在だったことが中止の原因に思えてきました。展示された意匠・構造・設備設計、法令の設計図書、そしてあの屋根の製作から運搬・建方にわたる実現性の高い施工計画は、造船や橋梁のファブリケーターも参加し完了していたようです。そして、国際コンペで選ばれたこのオリンピックメイン会場は、日本の設計・施工力を示し、世界から人が集まる「建築ツーリズム」のメッカとなり、東京2020オリンピック・パラリンピックのレジェンドの地位を確かにしたはずです。
ともあれ、新国立競技場に歓喜の「花」咲くことを願っています。
筆者:鈴木 亨(すずき とおる)
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