
日経新聞日曜版の一面に「消える木陰、世界と逆行」という記事が掲載されていました。東京23区内で木の枝葉が地面を覆う面積の割合(樹冠被覆率)は、2013年の9.2%から7.3%へ低下し、その減少面積は東京ドーム256個分に及ぶそうです。相続による土地の細分化や集合住宅建設に伴う庭木の伐採、街路樹の伐採などが主な原因とされています。
一方で、ニューヨークの樹冠被覆率は23.4%、パリは17.3%。パリ市は猛暑対策として2030年までに30%を目指して緑を増やしているそうです。都市の樹木は景観だけではなく、人々の暮らしを守る大切な社会資本として位置付けられているようです。
甲州街道の欅並木がつくる木陰の区間は、ひんやりとした空気を車内でも感じられ、樹木が気温上昇を抑えていることを実感します。
私の住む地域も、かつては田畑と樹木が広がる里山風景がありました。会社の前の田んぼに水が張られるこの季節、稲の上を吹き渡る風は実に爽やかでした。しかし、宅地化で風景だけでなく、風の通り・微気候も変わりました。茅葺き屋根の西側に、以前には見られなかった苔が目立つようになったのです。
家づくりは建物だけで完結するものではありません。風が通り、光が差し、水が巡り、木々が育つ。その環境があってこそ、本当に心地よい暮らしが生まれます。木陰が消えることは、単に緑が減るだけではなく、その土地らしい豊かな風景と暮らしの質が失われることなのかもしれません。
筆者:鈴木 亨(すずき とおる)
株式会社鈴木工務店 会長
一級建築士
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