日経新聞に、「コンパクトシティーに逆行」という記事が掲載されていました。「地価の安い郊外開発が進み、公共インフラが後追いするスプロール現象が止まらない」。そして、「過剰ストックの維持費だけがかさむ」。どうも自治体が規制をすり抜け安易な方向へと流れた結果、貴重な自然や田畑を壊し、コンパクトな街づくりに逆行する施策が行われているそうなのです。
この3月に訪れたオーストリアの村々でも、人口減少と高齢化が進んでおり、郊外の住人を町の中央に移住させるコンパクトシティーを目指していました。高齢者向けの高性能な公共住宅を低家賃で提供し、行政コストを抑えた効率的運用に努めていると話していました。そして重要なポイントの一つが、「苦しい時も、環境は守ってきました」という住民の環境に対する意識の高さです。村の幼稚園や小学校は自然に囲まれていました。
山本有三の戯曲「米百俵」で知られる、長岡藩大参事・小林虎三郎の米百俵のエピソードがあります。虎三郎は米を分け与えられることを望んでいた藩士たちに、「皆苦しいだろうが、我慢してくれ。ここが辛抱のしどころだ。藩訓『常に戦場にあり』とは、このことを申されたのだ」と話して説得し、百俵の米を元手に学校を開校したのです。
街・住宅地を見渡すと、起伏に富んだ緑が美しかった里山風景は跡形もなくなってしまいました。都市計画が後追いしているような無秩序な開発がいまだに続き、この先にどんな風景が残るのでしょうか。我慢・辛抱は、どこに行ったのでしょうか。新緑が美しいこの季節に。
筆者:鈴木 亨(すずき とおる)
株式会社鈴木工務店 代表
一級建築士
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