パティスリー エチエンヌのオーナーシェフ、藤本智美さん
 
昨年12月、新百合ヶ丘の洋菓子店「パティスリー エチエンヌ」のオーナーシェフ・藤本智美(としみ)さんが、極めて優れた技術や技能を持つ川崎市内最高峰の匠「かわさきマイスター」に認定されました。「このような称号をいただけてうれしい」と話す藤本さんが、同店を開業して今年で10年目。お店には子どもを連れた若い主婦から高齢者まで、幅広い年齢層の人たちが訪れます。
 
藤本さんが洋菓子職人の道を進むきっかけとなった出来事は、遡って中学生の時のこと。両親が共働きだったため、夕飯を作ることが多かった藤本さんはある日、カレーの作り方を調べていたら、「月桂樹(ローリエ)」を入れると書いてあり、不思議に思います。「ギリシャ神話に出てくる月桂樹? あれを入れるとどうなるんだろう?」と、試しに買って入れてみると、カレーがおいしくなり、両親もおいしいおいしいと言って食べてくれたので、料理をすることが楽しくなり、興味を持ち始めました。
 
高校卒業後は池袋にある調理師専門学校へ進み、そこで進路選択の時に製菓の道へ。1990年には磯子にあった横浜プリンスホテルに入社。ちょうどオープンの時期だったため、入社後の仕事はその準備の雑用ばかり。なかなか食材に触らせてもらえず、朝方まで雑用をして寝る間もない過酷な毎日でした。そんな中でも、「1日1つは良いことがあるはずだから見つけてごらん」と応援してくれている両親の言葉を胸に、前向きに取り組んだ藤本さん。温厚な性格で、何でも器用にこなすのでいろいろなポジションの仕事を任され、そこから勉強できることを吸収していきました。そして次第に先輩たちも藤本さんを認め、受け入れてくれるようになります。
 
ホテルで経験を積みながらも、自分のやり方は合っているのか、外でも通用するような技術を身に付けられているのかと、どこか不安に思っていた藤本さんは、それを確かめる手段としてコンクールに応募しました。もちろん練習は通常の業務を終えてからになるため、ますます寝る時間がなくなります。「それでも、興味がどんどん湧いてきている自分、勉強してスキルアップしていく自分を感じることができて、楽しかったです」。努力の甲斐あって、入社と同年の1990年には「第7回内海杯技術コンクール」優勝、2000年にはフランスの「アルパジョンコンクール」ピエスアーティスティック部門で優勝。コンクールでの優勝は評価された証となり、自信につながっていきました。
 
2003年、グランドハイアット東京のペストリー副料理長に就任し、2006年にはペストリー料理長に。同年、「第10回クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2007」 日本予選アントルメショコラと飴細工のピエスモンテ部門にて優勝。翌年2007年には、洋菓子世界大会の最高峰である「第10回クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2007」で総合優勝を果たしました。数々の功績をたて、2011年、新百合ヶ丘の地で妻でスイートアートデザイナーの藤本美弥さんとともに「パティスリー エチエンヌ」を開業。今では地域に多くのファンを持つ人気店です。
 
「お菓子は『普通』が1番」と藤本さんは教えてくれました。飛び抜けて変わったところがなく、見た目も味も「普通」のお菓子。でも、なぜかまた食べたくなってしまう。そんな安心するお菓子が理想だと。「『普通』の基準は人それぞれ。男性、女性、子ども、大人、誰が食べても魔法をかけたようにおいしいものを目指しています」。最近はそうやって生み出したお菓子をどう伝えていくか、どう発信していくかを考えているそうです。
 
かわさきマイスターとしては、技術や技能を伝えていくという役割があり、教育現場やイベントなどで実演や体験授業などを行う機会があります。今はコロナの影響で実施が難しいですが、子どもたちに伝えていくことは大切だと思っているので、機会があれば協力したいと言います。「まずは地域の皆様のためにできることは何か、お菓子で表現できることは何かを模索しながら、これからも一歩ずつ進んでいきたい」。水面にできる波紋のように内から外へ、藤本さんのお菓子はさらに広がっていきます。
 
 
[INFORMATION]
Patisserie Etienne(パティスリー エチエンヌ)
川崎市麻生区万福寺6-7-13 マスターアリーナ新百合ヶ丘1F
TEL:044-455-4642
営業時間:10:00~18:00
定休日:月・火曜
駐車場:無(最寄りの有料駐車場を利用)
URL:https://www.etienne.jp/