畳の部屋・和室があったころ、床の間はセットとして備え付いていました。そこには掛軸や季節の花、家長が大切にする置物が鎮座して引き締まった空気が漂い、そこが家の中心に思えたものでした。しかし、いつしか床の間は高価なテレビの絶好の置き場となり、ついには椅子の生活の登場で和室は使われない物置部屋に変身。床の間は消滅し、家の中心の座も失っていきました。
家で「最もよく皆が集まる場所」はと、社内で聞いたところ、「食卓」という答えが最も多く、居間はテレビがあることで、かえって会話が弾みにくい場になっていることを知りました。さらに、モバイル機器の発達で、一緒にテレビを見る機会も減り、テレビもまた中心の座から滑り落ちてしまったようです。先日も「テレビを見ません」という家の計画をしました。プランで苦労するのがテレビとソファと窓の配置関係です。省くことでプランがスッキリすることを再認識させられました。
では、これからの家の中心はどこになるのでしょうか。食卓が良いと思ったのですが、そろって食事をすることがめっきり減り、さらには定位置がなくなったお父さんは折り畳み椅子を持ち出す始末とか。そこで、家族の「絆」を取り戻すために、床の間のように一か所に中心を求めるのではなく、それぞれの思いや考えを表現できる場を家の内外に設けるのはどうでしょうか。例えば、ニッチ・棚板・お気に入りのチェストの上などに好きな時に思いを表現するのはどうでしょう。言葉にしなくとも、きっと伝えたい何か、「絆」を、皆持っているはずです。
筆者:鈴木 亨(すずき とおる)
株式会社鈴木工務店 代表
一級建築士
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