暮らしのコラム 住まい

築40年の住まいをリノベーションするということは、図面どおりに進む新築とは異なり、現場と向き合い、建物の履歴を読み解く作業から始まります。現在では工場で行うプレカット加工が主流となり、精度が高く、寸法や納まりにも信頼性があります。一方、当時の住宅は墨付けや刻みといった大工の手仕事によってつくられており、その個体差が改修の現場では如実に表れます。床には不陸(わずかな高低差)があり、最も大きいところで約20㎜。柱の建ちも完全ではなく、ボードを張るとコーナーで合わず、随所で手直しが必要です。屋根勾配も図面とは異なり、実測しながらの調整が欠かせません。断熱材も50㎜程度のグラスウールが入っているだけで、経年劣化により性能はほとんど期待できません。現在主流の大壁構造では、構造材が見えなくなる分、気流止めの成立が重要です。納まりを一つひとつ確認し、目に見えない部分こそ丁寧な施工が求められます。一般的には、耐震性の確保と断熱性能の向上が、暮らしの快適性をもたらします。小屋裏の気密確保には難儀しますが、切れ目のない施工を徹底します。

構造や性能は技術で整え、仕上げは職人の手を大切にする。微妙な調整の積み重ねが、住まいに深みと味わいを生みます。リノベーションとは設計力だけではなく、職人の知識と知恵、現場での工夫が問われる、密度の高い仕事なのです。古い家の柱や建具に残る暮らしの痕跡、猫の引っかき傷は、家が過ごしてきた時間そのものです。解体の最中、それらが「いい記憶」として立ち上がる場面もありました。

筆者:鈴木 亨(すずき とおる)
株式会社鈴木工務店 会長
一級建築士

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