新百合ヶ丘総合病院吉村泰典 名誉院長
吉村泰典 名誉院長
2022年4月1日から保険の適用範囲が大幅に拡大された不妊治療。内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)も務めた吉村名誉院長に、そのポイントを伺いました。
 
 
●「不妊治療の保険適用拡大」について、経緯や背景を教えてください。
日本の生殖医療は1983年頃から約40年、主に自由診療として取り組まれてきました。世界最先端の医療技術が各病院で取り入れられ、結果として、今や日本各地で世界トップ水準の成熟した生殖医療が行われています。しかし一方で、自由診療は患者さんの経済的負担が大きく、2004年には「特定不妊治療費助成事業」が始まりました(以降数年ごとに助成範囲は拡大改訂)。そして、 2020年に菅内閣が少子化対策の一環として「不妊治療の保険適用に取り組む」と宣言。この4月から保険適用がスタートしました。
 
●具体的には、どのような治療が保険適用の範囲になりますか?
今回の改訂では先進医療も含め、多くの治療が適用対象となりました。動きの良い精子を妊娠しやすい時期に子宮内に注入する「人工授精」や、採取した卵子と精子を同じ培養液に入れて受精させ体内に戻す「体外受精」、注射針などを使って卵子に精子を注入し受精させる「顕微授精」、そして受精卵(胚)の培養や保存・移植などです。※女性の治療開始年齢が43歳までなどの条件有
 
●保険適用範囲拡大におけるメリットとデメリットを教えてください。
不妊治療にかかる費用は1回50~60万円、もしくはそれ以上と高額です。保険適用により、おそらく多くの患者さんの経済的負担が一定程度軽減するでしょう。また、「不妊治療」がより一般的になり周囲の人の理解が深まることで、仕事と治療が両立しやすくなり、それが将来的には女性の活躍や少子化対策につながる可能性もあります。
 
問題点としては、日本では混合診療(自由診療と保険診療を併用すること)は認められませんから、保険診療となると標準治療の範囲内で進めていくことになり、患者さん一人ひとりに合わせた柔軟な治療ができなくなることが懸念されます。また、生殖医療はチーム医療です。臨床心理士や胚培養士など多くのスタ ッフが関わりますが、カウンセリングや胚培養など保険点数が付かない分の費用は病院が負担することになります。そうすると今までの医療の質を担保することは難しくなりますし、症例数の少ない地方の病院では診療が続けられないところが出てくるかもしれません。
 
顕微授精を行う胚培養士
顕微授精を行う胚培養士
 
●新百合ヶ丘総合病院には「リプロダクションセンター」という不妊治療専門の外来があります。保険適用範囲拡大にあたり、何か変更になる点はありますか?
当院は、もともとエビデンスのある標準的な生殖医療を、誠実に実施している病院です。ですから、今後もこれまで通りの質の高い治療を提供することができますし、患者さんの費用負担減少以外に変わることはありませんので安心してください。
 
不妊治療の保険適用開始は、医療者側も患者さん側も我が国の生殖医療を見直す良いきっかけになるのではないでしょうか。今後も出てくる課題に対処していくこと、制度も定期的に見直していくことが大切だと考えています。
 
ありがとうございました。
 
 
[INFORMATION]
新百合ヶ丘総合病院リプロダクションセンター
TEL:044-322-0130(月~土曜9:00~17:00)